収穫期:標高900メートル、ベイト・エルワイナリーの摘み取りの舞台裏

In this article
夜明け前、気温がまだ一桁台のうちに畑へ向かう。収穫期の朝はいつもそうだ。標高900メートル前後に位置する区画では、日中との気温差が大きく、糖度と酸のバランスが数時間のうちに変わっていく。摘み取る側にとっては、この短い時間の中でどの区画から手を付けるかという判断そのものが、その年のワインの骨格を決めることになる。
標高900メートルという条件が生むブドウの個性
海抜が上がるほど日中と夜間の気温差は大きくなる。日中の強い日差しで糖分の蓄積が進み、夜間の冷え込みで酸がしっかり保たれる。この寒暖差がアロマの複雑さと引き締まった酸のバランスを両立させる条件になる。ベイト・エルワイナリーの畑の多くはこの高さに位置し、土壌は鉄分を多く含むテラロッサ土壌である。水はけが良く、根が深く張るこの土壌では、ブドウの樹自体がストレスに強く育つ。
標高が高い畑は風通しも良く、ブドウの房が常に乾いた状態を保ちやすい。これはカビや病害のリスクを下げるだけでなく、果皮を健全なまま完熟させることにもつながる。健全な果皮は色素とタンニンの質に直結するため、赤ワインの深い色調と滑らかな渋みの土台になる。
区画ごとに判断が分かれる、シングルヴィンヤードの収穫基準
同じ畑の中でも、区画によって日照の角度や風の当たり方が異なり、熟成の進み方に差が出る。ベイト・エルワイナリーで手がけるシングルヴィンヤードの造りでは、区画ごとに独立した収穫日を設定する。ある区画は早朝の涼しいうちに摘み、別の区画は午後まで日照を待つといった具合に、畑ごとの個性をそのままワインに残す判断が続く。
収穫時期の見極めでは、果汁の糖度や酸の量だけでなく、種の色づきと渋みの質、果皮のアロマの変化も日々確認する。農学者であるヒレルが畑を歩き、房を一つずつ味見しながら熟度を確認する作業は、収穫期に入ると毎日欠かせない工程になる。数値だけでは判断しきれない要素、たとえば果皮の香りの立ち方や種の苦味の抜け具合は、経験を積んだ舌でしか見極められない。
手摘みという選択とその理由
高品質な赤ワインの多くが手摘みを選ぶのには理由がある。機械収穫では健全な房と傷んだ果実が混ざりやすいが、手摘みなら一房ごとに状態を確認しながら選別できる。標高の高い斜面では地形自体が急で機械が入りにくいという事情もあるが、それ以上に、房を潰さずにそのまま醸造室へ運ぶことができる点が品質に直結する。
- 早朝、気温が上がる前の涼しい時間帯に摘み取りを開始する
- 房ごとに色づきと張りを確認し、傷んだ粒があれば手で取り除く
- 収穫かごは浅く重ねすぎず、果実が自重で潰れないようにする
- 摘み取った房は速やかに日陰へ移し、直射日光を避ける
- 区画ごとに収穫かごを分け、醸造工程でも区別を保つ
灌漑をしない畑が生む凝縮感
畑の一部は意図的に灌漑を行わない乾式栽培で育てている。水を与えないことで根はより深く土壌の水分を求めて伸び、樹全体が水分を求めて生き延びようとする。結果として実る果実の量は少なくなるが、一粒あたりに凝縮された果実味とアロマの濃度は明らかに高くなる。
灌漑をしない畑では収穫のタイミングを見誤ると一気に水分が失われ、房全体がしぼんでしまうこともある。だからこそ収穫期の見回りはより頻繁になり、判断を急ぐ場面も出てくる。手間はかかるが、この畑から生まれるワインには他の区画にはない集中感があり、特定の区画のヴィンテージを心待ちにする収集家がいるのも、この栽培方法によるところが大きい。
Want to hear more about The Manne Family's services?
Contact usヤコブの夢の地で紡がれる収穫
この畑がある土地は、トーラーに記された族長ヤコブが夢を見た場所として今も語り継がれる地に位置している。収穫の現場に立つと、単なる農作業以上の重みを感じる瞬間がある。ワイナリーを支えるマン家(The Manne Family)にとって、この土地で葡萄を育て収穫することは、歴史的な背景を持つ仕事を日々継承していくという意味合いも持つ。
経済を専門とするイスラエルが経営面を、化学を学んだシャローム・ダヴィッドが分析と品質管理を担い、母であるニナが家族全体をまとめる。収穫期はこの家族全員の役割が最も密に交差する時期でもある。畑の判断、分析データの確認、そして出荷までの計画が同時並行で進んでいく。
醸造室までのカウントダウン、時間との勝負
摘み取った果実は、収穫から醸造室に運び込まれるまでの時間が短いほど新鮮さを保てる。標高の高い畑から醸造施設までの搬送では、気温が上がる前に作業を終えることが徹底される。到着した果実はすぐに選果台に運ばれ、房の状態を最終確認したうえで除梗や破砕の工程に進む。
この段階で果汁の分析を担うのがシャローム・ダヴィッドで、糖度や酸のバランスを確認しながら、その年の醸造方針を微調整していく。収穫期は畑の判断だけでなく、醸造室での即断即決が求められる期間でもあり、家族それぞれの専門性が同時に試される時間になる。
収穫期の判断がその先の熟成にどうつながるか
収穫のタイミングと選果の精度は、瓶詰め後何年も先の味わいに直結する。健全な状態で完熟した果実から造られたワインは、若いうちから果実味と香りが開いており、同時に長期の熟成にも耐えうる骨格を持つ。ジェイコブズ・ドリームやタル・ビニヤミン、リベレーション、5757・オールドヴァインズ、マジェスティックといった各シリーズも、その年の収穫の質がそのまま個性として反映されている。
生産は限られた区画から、細部までこだわり抜いた工程で行われるため、リリース直後から楽しめる仕上がりでありながら、セラーで数年寝かせることでさらに複雑な表情を見せる。特定の区画から生まれる一本を待ち続ける収集家がいるのも、この収穫期の積み重ねが生む結果と言える。
香港からアジアへ、今年の収穫を携えて
毎年11月、香港では国際的なワイン見本市が開催され、アジア各地から業界関係者が集まる。今年もベイト・エルワイナリーはこの場に立ち、標高900メートル前後の畑で摘み取られた今年のワインを紹介する予定である。ムンバイやナシックをはじめとするインドの輸入業者、ソウルの業界関係者、東京やタイ、シンガポールから訪れる買い手やホテル関係者との出会いを楽しみにしている。
収穫期の判断ひとつひとつが、最終的にグラスの中の一杯につながっていく。香港の会場でその過程を直接説明できることは、畑と造り手の距離を感じてもらう貴重な機会になる。東京をはじめアジア各地でこの物語に関心を持つ方には、ぜひ現地で直接語り合いたい。
FAQ
収穫期はいつ頃行われますか?
品種や区画によって前後するが、夏の終わりから秋にかけての期間に行われる。標高の高い区画ほど熟すのが遅く、収穫時期も後ろにずれる傾向がある。
なぜ標高の高い畑でブドウを栽培するのですか?
標高が高い場所では日中と夜間の気温差が大きく、糖度の蓄積と酸の保持が両立しやすい。この寒暖差が複雑なアロマと引き締まった味わいを生む条件になる。
シングルヴィンヤードワインとは何ですか?
複数の畑をブレンドせず、特定の区画一つから造られるワインのことを指す。区画ごとの土壌や日照条件がそのまま個性として表れるため、同じ品種でも味わいが大きく異なる。
灌漑をしない畑のブドウはなぜ特別なのですか?
水を与えない乾式栽培では根が深く伸び、実る果実の量は少なくなるが、一粒あたりの果実味とアロマの濃度が高くなる。手間はかかるが凝縮感のある味わいにつながる。
The Manne Family is here for you — get in touch.
Contact usHere's a ready-made Facebook post
夜明け前、気温がまだ一桁台のうちに畑へ向かう。収穫期の朝はいつもそうだ。標高900メートル前後に位置する区画では、日中との気温差が大きく、糖度と酸のバランスが数時間のうちに変わっていく。摘み取る側にとっては、この短い時間の中でどの区画から手を付けるかという判断そのものが、その年のワインの骨格を決めることになる。 収穫期はいつ頃行われますか?
https://beitelwinery.bizagent.me/a/harvest-season-beit-el-vineyard-900m